藤岡宣男物語り6  高円寺 綾

 

 (何者との出会い2)

 藤岡も名刺を出した。

「へーえ、ヤマハ。ヤマハだもの、歌うまいんだ」

 と木村が言う。

「僕、カウンターテナーの勉強しているんです」

「カウンタ何?」

「カウンターテナーです」

 木村は、解ったのか、解らないのか、ただ、頷く。

 後日、木村はカウンターテナーの意味を知らなかったと言う。全く、クラシックの世界に疎かった。

 しかし藤岡は、何かに駆り立てられて、一生懸命木村にカンターテナーの説明をした。「もののけ姫って、知ってます?」

 映画もあまり見ないようである。

 ただ木村の良いところは、何でも興味を示すところである。

「今度、それ聞かせてよ」

 ということになり、次の日曜日に、ルネッサンスホテルで、食事をすることになった。

 藤岡は、木村に非常に興味を引かれた。自分の世界を持っている。自分の力で、世の中を生きている。教室を持ち、占い師をし、自分の今までの世界にはない人間である。不思議な存在だった。こんな風にも人は生きられるものかと。

 勿論、占いというのにも興味を持った。実は、自分がカウンターテナーの道に歩み出そうかどうか悩み、友人の紹介で、京都の占い師に手紙相談をしたことがあった。

 その返答は、ヤマハを辞めずに趣味の域で、カウンターテナーをやった方がいいという答えだった。無難な答えではあった。

 藤岡は、教会で唄った宗教曲のMDを持ってホテルロビーで、木村と会った。

 ホテルのティーラウンジで、早速、そのMDを木村に聞かせた。

 イヤホーンを耳にした木村が、藤岡を見て言った。

「素晴らしいじゃないの、これ。凄いよ。これが、カウンターテナーか」

 木村は興奮していた。

「実は、私、カトリックなのよ。だから、こういうの、凄くいいと思う」

 姿からは想像も出来ない、木村がカトリックだとは。

 藤岡は、カウンターテナーが世界でも数少ないことなどを木村に語った。

「これを目指しているんだ。いいねえ」

「でも、それが、今悩んでいるんですよ」

「どうして?」

「会社を辞めてまで、やれるかとか」

 木村は、ふぅーんと言った目付きをした。

「悩んでんの?」

「ええ、まあ」

「やりたいことは、やった方がいいと思うけどね。人生短いし」

 木村の持論は、今も変わらない。人生は短い。やりたいことをやるに限ると。

 しかし、木村は藤岡の現状をまだ知らない。

 二人はそのままホテルの和食レストランに入り、昼食を取った。

 話題は、色々な話しに弾んだ。

 藤岡は、木村に益々興味を持った。

 木村は、一生独身で好きなことをやると事もなげに言う。この強さは、どこからのものなのかに興味を持った。

 どんな話題でも、反応が面白い。普通の人と違うというのが、藤岡の感想だった。また、普通ではないというのが、魅力だ。

 藤岡は、思い切って

「今度、木村さんの部屋に遊びに行きたい」

 と言った。すると木村は

「私はね、人を部屋に入れないの。でも、どうしても来たいって言うなら、いいよ来て」

 と言う。

 それから、時々、木村の部屋に遊びに出掛けるようになるのだ。

 後に木村天山は、オフィスTW2の代表となり、藤岡のプロデューサーとなる。

 二人の関わりは普通ではなかった。木村が普通ではないからだ。

 木村には、ある法則がある。本人に言わせれば、礼儀作法だと言う。木村の礼儀作法に適わないと、木村は烈火のごとく怒る。無謀なことではない。単純な礼儀作法を身につけていないと、木村の火薬に触れることになる。

 神も仏も人間も、まず礼儀作法があってのこと。正しく敬い、正しく接することから、すべてが始まると木村は言う。

 藤岡は木村の肩書の多さに、怪訝な気持ちを抱いたが、どうしてそうしているのかを理解すると、その怪訝さは解消した。それが木村の生き方なのである。

2006/3/21掲載

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