藤岡宣男物語り8  高円寺 綾

 仕事

 ここで、藤岡が取り組んだ仕事に関して少し触れておきたい。

 それは藤岡という人間を判断する上で、非常に有意義だと思われるからだ。

 1998年9月に開講した、ダウン症児のための音楽教室「のびのびランド」のことである。

 藤岡の書いた知的障害児野多目の音楽教室「のびのびランド」の企画書が、私の手元にある。

 これを抜粋して紹介するのが、一番適切であろうと考え、ここに暫く、藤岡の文章を載せることにする。

 1 序

 本稿の目的は、財団法人ヤマハ音楽振興会(以下、財団と記す)における障害児教育の端緒として、北海道支部における知的障害児のための音楽療法教室を実現するための企画を提案することにある。

 財団において音楽療法に関しては、現在までいくつかの試みがなされている。例として昨年三月より一年間開かれた財団本部事業開発部主催の音楽療法研究会や、四ツ池センターにおける大庭講師による独自の障害児教室を挙げることができる。〜略

 たしかに障害児教育には慎重に取り組むべきである。しかしながら、慎重になりすぎるあまりこの分野への関わりをためらってしまっては財団に期待される役割を自ら放棄してしまうことになる。障害児教育の分野において社会貢献をなすためには、実践と研究のバランスのとれた体制をつくったうえで、まず実践にとりかかることが重要なのである。

 北海道支部においては、現在、外部からのサポート体制の充実により、実践に取りかかり易い状況が設定出来つつある。したがって、北海道支部における実践の現実化を障害児教育に対する「財団としての」継続的な取り組みの端緒としたい。

 この序文には、秘めた情熱を感じる。ある種の形式的文体にあるが、本人の強い意志が書かれている。

 藤岡の行動は、この文章に象徴される。つまり、隙が無いのである。準備に準備を重ねて、実行に移すタイプであることが、如実に理解出来る。

 もう少し進んでみる。

 音楽療法とは

 定義

 音楽療法の定義としては様々なものがあるが、1994年に全国組織として設立された臨床音楽療法協会は次のように定義づけている。

 「音楽療法とは、音楽の持つ生理的、心理的、社会的働きを、心身の障害の回復、機能の維持、改善、生活の質の向上に向けて、意図的、計画的に活用して行われる治療技法である。」

 しかしながら、実際には一言で説明することは難しく、様々な種類の音楽療法が存在している。本稿では健常者のための音楽療法ではなく、いわゆる障害を持つ人々のための音楽療法について考えてゆきたい。

 様々な見解があるにせよ、共通の考え方として、音楽療法とは、「治す」というより発達を「援助する」に近い活動で、心身をよりよい状態に「変容させる」活動であり、一人一人の小さな反応に目を向け音楽を通して働きかけ、またその反応を受け止める活動を繰り返し「変容していく」突破口を探していくことである。

 大枠としては、「音楽活動を通して対象者をより良い状態に変容させていく」ということにかわりないとしても、手法を選択する際の考え方、すなわち哲学とでも言うべきものには、大きく二つの流れがある。

 1.行動療法的な考え方〜略

 2.自己実現的な考え方〜より人間らしく自己と周りを受け入れ、自己を表現していき、全人格的なよりよい状態を目指す。

 楽しんだり、生き生きした活動を続けることによって、対象者の中にある変容のエネルギーを引き出していき、結果として対象者を変容させる。

 実際の音楽療法は、これら二つの考え方の組み合わさったものとして構成されると考えてよい。特にヤマハ音楽教育システムの考え方と2の自己実現的考え方は共鳴する部分が多いといえる。したがって、その際には2の自己実現的な考え方を中心に、次第に1の行動療法的な考え方を取り入れてゆくというバランスが最適であると思われる。

 実に、明晰な文章である。このような文章を書くことは、藤岡の大学院時代からの論文を書く作業と、同期の連中との文章、論文に関する討論によるものであると思われる。

 文章に関しては、非常に細心の注意を払っていたことが伺える。つまり、誰にも難点を付けられないようにとの思いだった。

 藤岡がコンサート時にする、お話しの原稿を作り、無駄なく会話を進めていたと言うのが頷ける。その後、慣れてからは、原稿を作らずとも藤岡の会話は、無駄なくスマートなもので、見事なスピーチになっていた。それは誰もが感心する。

 実は、これは少年時代からの訓練でもある。ここでは多くを語らないが、小学生、中学生時代、生徒会長として、即座にお話しを作っていたと聞いている。

 利発で賢い少年時代がある。

 もう少し、藤岡の企画書を読んでみることにする。

2006/4/4掲載

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