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 藤岡宣男物語り39 高円寺 綾

 打ち上げ

 幕が下りて、最後の舞台が終わった。

 主役の女の子や、出演者が泣いている。

 「お疲れさま」

 誰言うともなく、それが広がった。口々に「お疲れさま」と言い合う。

 衣装を脱ぎ、化粧を落として藤岡は、各出演者の部屋を木村と共に回った。

 「お疲れ様でした。うちの代表です」と木村を紹介する。すでに木村の顔を見ているのでスムーズな対応だった。

 そのまま打ち上げがある。

 一通りの挨拶を終えて、木村と、歌舞伎町にある打ち上げ会場に向かった。

 「売れた?」

 藤岡が尋く。木村がロビーでCDを販売していたのだ。

 「まあまあ」

 思った以上には、売れなかったのだ。カウンターテナーを知らない、藤岡を知らないからである。ただ、主役を務めた女の子のCDも、それ程売れていなかった。

 「でも、成果は十分にあったよ」

 木村が言う。

 「そうだね」

 藤岡は、満足だった。これからだと思った。これから、新しく始まると。

 会場には、早く着いた。

 まだ大半の人が来ていない。座る場所を決めかねていると、案内の女性が

 「適当に座って下さい」

 と言う。藤岡は、木村と一緒に腰掛けた。

 少し経つと続々と出演者が入って来た。

 「お疲れさま」

 と口々に言う。

 どんどんと、席が埋まった。藤岡の横には、若者達が座った。木村の横も若者達で、真向かいが、年配の出演者である。

 プロデューサーが音頭を取って、打ち上げが始まった。

 

 会食をしつつ、隣同士が言葉を交わす。和やかなムードである。一緒に舞台を務めたという共有感情が親しみを増した。

 次第に、席が動いた。話し合うために、移動する。藤岡は木村と離れた。

 木村は、名刺を差し出して挨拶していた。

 一時間程すると、カラオケが始まった。主役の男の子が最初に歌う。

 何人かが続くと、木村が藤岡の隣に来て

 「そろそろ、出よう」と言う。

 電車で帰るには、丁度良かった。

 「じゃあ、挨拶してくる」

 藤岡は、そう言って、主な人に挨拶するために、立ち上がった。木村は、そのまま入り口に向かった。

 

 新宿駅に向かいつつ、充実感と、少しの寂しさを感じていた。

 「あの程度でいいんだ」

 と木村が言う。

 「要するに、人集めだね」

 藤岡が答えた。

 「クラシックより楽しいけど、ああいうお客は、ちょっとねー」

 木村が言う。

 結局、木村が言うには、客の質の問題だと言うのだ。それを藤岡も理解したが、何とも言えない。

 「あの客にクラシックを聴けといっても無理だ」

 確かにそう思う。

 「でも、藤岡宣男を知ってもらうには良かった」

 「うん」

 「のぶお君が楽しかったら、それでいいけどね」

 渋谷までは、立っていた。東横線に乗り換える。

 ミュージカルを終えて、一つ前に進んだ感覚だった。

 翌日から予定が入っている。藤岡は木村の部屋に寄り、少し休んだ。

 木村は、日本酒を飲み始めている。

 二人で、ミュージカルに出演したことの様々を話し合った。そして、オリジナル曲をやろうという話しに行き着いた。

 それは、即木村が実行することになる。

 後に「風のいざない」というCDになるのだ。

 勿論、その時は、タイトルも決まっていない。漠然と、オリジナル曲をという思いが、早々に実現することになる。

 「やった者が勝つ」

 木村が言う。

 「そうだね」

 藤岡が答えた。

2006/12/13掲載



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